こんにちは。山本アンドリュー(@chokkanteki)です。
今回は、日本を離れて暮らす在外日本人特集を全3回に分けて記事にします。
第3回目の今回は、日本を離れて6年、オーストラリアのケアンズに暮らす「Yukippe」さんの体験です。
それでは、日本を離れて改めて気づかされた、日本の「食文化と高い安全性」について日本人の感想をどうぞ。
オーストラリアに移住して6年、唯一手に入らないもの
日本を離れて6年。オーストラリアの北部に位置するケアンズで、韓国籍の夫と出会い、移住した。
ケアンズといえば1970~80年代に多くの日本人が移住を試み、日本人向けのビジネスや飲食店が多く展開された為、海外といえどアジア食料品店にいけば大抵の調味料(例えば醤油、みそ、日本酒、味の素など)、納豆や豆腐、インスタントヌードルやお菓子、冷凍食品が簡単に手に入る。
寿司やラーメンは日本食としてこちらで高い人気を誇り、多くのチェーン店が日本から進出していて、そのクオリティは非常に高い。
そういう訳なので、特に日本食に対して不便があるという訳ではないし、大抵のものは自分で用意して料理できるのだが、それでも、どうしても、手に入らないものがいくつかある。そして、それらは私たちの食文化に起因するため、オーストラリアで購入するのはかなり困難である。
生食は海外では一般的ではない
まず一つ、我々の独特な食文化として、生食があげられる。
例えば、生卵。オーストラリアのスーパーに並ぶ卵の消費期限は、基本的に出荷日から1か月以上猶予があり、購入後も常温保存が基本である。それは、販売する側も、そして購入する側も、卵を生食で食べることを一切想定していないからだ。以前、日本に母体を持つ日本人経営の養鶏所を訪れ、ここで作られた卵であれば、生卵として生食可能なのかと伺った。オーナーは、毎朝新鮮な卵を出荷していても、こればっかりは自己責任で食べてもらうしかない、と私に告げた。
それは前述の通り、生食を想定外とするオーストラリアと日本とでは食品安全検査の項目も、その厳密性も異なるからである。
これは余談ではあるが、私の友人は試しに卵かけご飯を食し、1週間の嘔吐、下痢に苦しんだ。
オーストラリアは日本の魚を輸入している
さらに、生食といえば、われらの魂(ソウル)フードとも言える刺身、寿司が代表としてあげられる。
オーストラリアは日本と同じく、海に囲まれた国だ。新鮮な魚介類が同じように毎日漁港に上がるし、各地にシーフードマーケットがある。
しかし、いざ寿司を食べようと思うと、メニューの中で生ものといえばマグロ、サーモン、イカ、エビのみ。まれにアジ、ヒラメ、タイ等見つけてみても、それは日本から冷凍して輸入されたものだ。どうにか新鮮な魚の刺身を食べられないものかと、魚屋に出向いてみると、我々が普段日本で食べているような魚の近似類ではあるようだが、見覚えのあるものはひとつもない。試しに、この魚を生で食べても大丈夫か、と尋ねると、怪訝な目を向けられ、自己責任、保証は全くできないと卵と同様の答えが返ってきた。それは、漁港から生食を想定した保存、輸送方で出荷されていないからだ。
ならば、自分で新鮮な魚を釣って、捌けばいいのではないかと思い立ち、釣りに出かける。
ケアンズはグレートバリアリーフで有名な年中30度を超える常夏の地域。釣った魚は赤、青、黄色とカラフルなものもあり、食用ではあるようだが、なんとなく生で食べるのにはやはり抵抗がある。
この国ではフィッシュアンドチップスが代表的な国民食。基本魚は焼くか、揚げて食すものなのだろう。
日本に一時帰国すると、一番に口にするのはやはり寿司だ。閉店セールのシールが貼ってあるようなスーパーに並ぶパック寿司でも、オーストラリアで一皿5百円払って食べる寿司の100倍新鮮で、美味い。
ホルモンはまず日本以外では手に入らない
もう一つ、こちらに来てなかなか巡り合えないものがある。それは「ホルモン」所謂、臓物だ。レバーはたまにスーパーでも見かけるが、牛の小腸、大腸、センマイ、いかなる部位であれ私はこちらに来て、売られているのを目にしたことがない。
牛を解体しているのであれば、ごみとして捨てられているのではないかと精肉店に聞きに行ったことがある。シンプルに「牛の小腸を売ってくれないか」と尋ねと、店主は「ソーセージでも詰めるのか?それならば用意できる」と言ってくれた。しかし、私が欲しいのは皮ではなくて腸そのものだ。自分で処理をして調理したい、というと、野蛮人を見るように、そんなものはないと一蹴された。いまだに、日本食店でさえ、モツは見たことがない。
オーストラリア人は聞く「なぜリスクを冒して毒を持つフグを食べる?」
また、よくオーストラリア人に聞かれるのは、フグについてだ。なぜ、日本人は毒をもつ魚をわざわざ危険を冒してまで食べようとするのか。
それは、その価値があると我々は認識していて、さらに安全に処理する技術もあるのだ、と彼らに説明すると、やはり理解しがたいと笑われる。
日本の食に対する情熱、徹底した安全性について
振り返ってみると、生食であれ、モツであれ、フグであれ、日本以外の国では主に危険性を問われ、流通していないものだ。
そこを、日本人は最大限の安全への配慮と努力をもって、食している。
思えば、寿司には欠かせない酢飯も山葵も、殺菌作用を考えて施された工夫の一つだ。
日本を出て、我々の食に対する探究心と情熱、そして強い安全性へのこだわりと、それを支える技術や工夫に気づいた。
そして、それらを今は誇らしく思っている。